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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)217号 決定 1961年11月07日

抗告人 長郷清助

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

一件記録によれば、本件競売不動産は債務者宮中四郎が旧自作農創設特別措置法により売り渡しを受けた農地であるところ、同人はその後右農地をその世帯員以外の者である奥村シズカに対し知事の許可を受けることなく耕作させている事実が明らかとなつたので、農地法第一五条第一項にもとずき、昭和三六年七月一日国(農林省)がこれを買収したこと、その結果同法第一五条第二項により同法第一三条第一項が準用され、抗告人が前示債務者に対し有する本件抵当権は消滅するに至つたこと、以上の事実を認めることができる。抗告人はまず第一に本件競売開始決定により差押の効力が生じた後に前示買収処分がなされたから、右買収処分を以ては競売申立債権者である抗告人には対抗できないことを理由として、右買収処分の無効を主張するが、農地法第一五条第一項にもとずく農地買収処分は、国が権力的手段を以て農地の強制買上を行うものであつて、債務者の処分禁止を目的とする差押の効力は右買収処分には及ばないと解するを相当とするゆえに、右抗告人の主張は採用しない。

次に抗告人は農地法第一五条の規定は抵当権者の有する競売申立権を侵害する買収処分を許容したものでないと主張するが、同法によつて準用される同法第一三条第一項の規定にもとずき、同法第一五条第一項により国が買収した農地の上にある抵当権は消滅するが、同法第一三条第二項の規定により右消滅した抵当権を有する者は、国が同法第一二条の規定にしたがい供託した対価に対して物上代位権を行使することができるとして、抵当権者の利益を保護しているのであるから、同法第一五条の規定にもとずく買収処分が抵当権者の有する権利を侵害するものというをえないのであつて、右抗告人の主張も採用できない。

したがつて前示冒頭説示の事実関係にもとずき本件競売手続開始決定を取り消した原決定は相当で、本件抗告は理由がない。よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 秦亘 高石博良)

抗告の趣旨

原決定を取消す

との裁判を求める

抗告の理由

本件取消決定の理由とする処は、抗告人の抵当権は農地法第十三条第一項の規定により消滅したというにある、ところが右農地買収は左の理由により無効である。

一、右農地買収は、昭和三十六年七月一日を買収の期日として為されたものであるが、本件競売開始決定は昭和三十四年四月二十五日であり、右競売開始決定により差押の効力が生じており、農地買収が所有者(本件の場合債務者)との関係においては、有効に成立したとしても、それを以つて、申立債権者には対抗出来ない。

二、右農地買収は、農地法第十五条第一項によるというのである。即ち本件農地は昭和二十四年七月二日自作農創設特別措置法により、債務者、宮中四郎に売渡されたものであるところ、右宮中が第三者に賃貸したので、農地法第十五条第一項に該当するというのであるが、右自創法による売渡農地については、農地法第三条第二項(第六号)により賃貸が禁止されているのみならず、競売開始決定後の賃貸は申立人に対する関係においては相対的に禁止せられ、この禁止に反する行為は差押えられた財産より弁済を受くべき競売申立人の期待権を害する範囲においては、申立人に対して無効なことは明白である。

而して農地法第十五条の法意は特別措置法により折角自作地にしたにもかゝわらず、右を小作に出した場合は、右措置法の趣旨に照らし国が買収すると規定したもので、いわば罰則的規定であり前述せる競売申立人の期待権を害する売却を許容したものではない。

よつて抗告趣旨の裁判を求めるものである。

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